小説「世紀末の苦悩」
1990年から2001年までの日本とアメリカが舞台。一人の人間が苦悩から学び解放されていく様を描く。


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東京在住、30代独身男性。



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第11章 霊界からのメッセージ
まずは第1章から第10章まで読んでください。


 秀生は電車に乗りながら車窓の富士山を眺めていた。電車が進につれ、富士山の姿は大きくなる。秀生の座っている席には、縄紐が置かれていた。家の物置にあったものを持ってきた。太い縄紐だ。特に用途もなく、以前から置きっぱなしになっていた縄紐だ。
 このまま進めば電車は富士山麓近くの駅に停まる予定だ。そこですることを実行しようと考えた。富士山には、小学生の頃、家族旅行で行ったことがある。登山はしなかったが、間近で見る富士山の荘厳な姿は今でも忘れない。横浜にいても、時々、晴れて澄んだ日には、遠くの富士山が眺められる。それも美しい。
 そんな美しい姿を眺めながら、人生の最後を迎えられれば丁度いいのだろう。
 
 電車が停まった。乗客が、数人ほど降りた。秀生の目的とする駅はまだ先だ。だが、電車が進まない。アナウンスが聞こえた。「当電車は、これより横浜への折り返し運転をいたします。」
 秀生は、はっと思い、縄紐を取って電車を降りた。ホームに出た。即座、電車は、逆方向に向かって発車してしまった。
 どうやら、終点まで行く電車ではなかったらしい。それならば、次の電車に乗って、富士山麓の駅まで行こうと考えたが、外はとても暑かった。湿気もかなり強い。待ってもよかったが、異常に蒸せる。ふと、ホームから悠然とした姿の富士山を見つめた。こんなに暑くても頂上には薄い雪の冠をかぶっている。秀生は、なぜか改札を出て駅の外に出た。
 辺りは、田圃と住宅がぽつぽつとある感じの田舎町だ。富士山は間近に見えても、山麓までにはかなりの距離がある。だが、ここにしようと考えた。
 この辺りにないのか。歩きながら辺りを見渡す。数百メートル先に小高い丘の森を見つけた。あそこならどうだろうかと思い、近付いた。
 
 数分ほど歩いて着いた先は、鬱蒼とした森だった。周囲は田圃だけで何もない。森の中に入る。道路から土の小径に入ると突然、涼しくなった。日差しが木々で遮られ、やや視界が暗くなった。秀生は丘を登っていくように進んだ。さっきまで暑いところを歩いていたせいなのか何だか不思議と気持ちいい。
 はっと不気味な光景を目にした。墓場だ。鬱蒼とした森に突如現れた墓石の列。墓場の先には、廃屋のような寺小屋が見えた。誰もいなくなって放置された墓場の跡のようだ。墓石の周りは雑草が茂り荒れ放題だ。
 何だか怖くなったが、秀生はさらに先を進んだ。怖くなるのが不思議に思えた。これから、自分も墓場へ向かおうとしているのに。
 しばらく歩き進むと丘の頂上に来たことに気付いた。目の前に富士山がそびえる。これが自分の人生で最後に見る景色だと思うと、感慨深かった。これでいいのか。ああ、いいのだ。これしかない。
 すぐそばに縄紐を吊す木を見つけた。枝が手を伸ばせば届く高さになり、太くて丈夫そうだ。そして、木は丘の斜面となっているところに立っていた。この枝に吊した縄紐に首をかければ、そのまま斜面の段差の上に体をぶら下げられる位置にある。
 紐で輪っかをつくり、それを枝に垂らし、枝に縛りつけられるように結び目を作り、縄を引っ張り枝に縄が垂れるようにした。秀生の目の前に首をかける輪っかができた。
 それを首にかけ、斜面の段差に飛び込めば、体がぶら下がる。
 秀生は、富士山を見ながら、首に輪っかをかけた。そして、飛び込む。
 体が枝にぶら下がった。目の前の富士山の光景が急にかすんで見えてきた。首がどんどん締め付けられ、息が出来なくなってくる。
 苦しい。ああ、苦しすぎる。

 その時、ヒュッという音が頭上で響いた。それと同時に秀生の体は、地面に落ち、斜面を転がっていった。
 しばらく転がったかと思うと、斜面から平地に来たらしく、体が止まった。気が付くと、縄が首に掛かったまま草むらの地面に横たわっていた。秀生は起きあがろうとした。
 その時だった。ばしっと木刀が秀生の体を叩いた。起きあがろうとすると、さらに叩かれた。何度も何度も数分ほど肩と背中を木刀が打ち付けられる。
「このバカもの。仏様からいただいた体を何とこころえる」
と怒鳴り声が聞こえた。
 木刀の打ち付けがやむと、目の前に年老いた僧侶が立っていた。頭は禿げ、袈裟を着ている。目をぎらぎらとさせ、顔を赤らめている。秀生は、立ち上がった。
「よりにもよってわしの土地で何ということをしてくれる」
 秀生は、斜面の上の木を見ると枝にぶら下がっていた縄はぶら下がった十センチほどのところで切り落とされ、その先の幹に小刀が突き刺さっていた。この小刀を投げて縄を切り落としたらしい。すごい手さばきだなと、不思議と感心してしまった。
 この僧侶に、命を助けられたのだ。秀生は、自殺しようとした自分が急に情けなくなった。
「とにかく、わしの寺に来い」
と僧侶が、また怒鳴って言う。
 
 僧侶についていって、寺の中に入った。登っていく時に見た廃屋のような寺小屋だったが、だが、中は、外見とはうって違い、清潔でしっかりとした造りになっていた。畳の部屋に案内された。
 畳の上に座らされ、僧侶と顔を合わせた。僧侶の表情は、なぜか穏やかになっていた。秀生は何を言われるかと恐れをなして緊張した。
「若者よ、君は何を悩んであんなことをしようとした。良ければ話してくれないか」
とても穏やかな口調で話す。
 秀生は、その穏やかさに呆気に取られてしまった。
「いえ、ごめんなさい。勝手にの貴方様の土地に入り込んで。本当にごめんなさい。警察に突き出しますか」
と秀生は言った。
「ふん、もうわしの土地じゃあ実を言うとないんじゃよ。事情があって手放さなくちゃならなくなった。息子に継がせる予定だったが、あろうことか、せがれは借金を作りすぎて破産寸前になりおって。だから、ここをわしは出ていかなければならない。すでにこの寺と墓地を含めた土地は、他人のものになってしまってな。今日が、わしがここにおれる最後の日になったんじゃあ、そんな時に君と出会えたのは何かの縁と思うのだが。どうだね? わしに悩みを全て打ち明けてみてくれないか。仏教の世界では袖振り合うも他生の縁と言う言葉がある。知っているだろう。ここで出会えたのも、君の命を救えたのも、何か御仏の縁があってのことじゃあ。さあ、言ってみてくれないかね」
 秀生は、急に心の緊張がほぐれてきた。僧侶が、まるで仏様の使者のように思えた。
そうだ。僧侶の言う通りだ。こんな出会いが出来たのも何かの縁だ。単なる偶然ではないはずだ。
「実を言いますと、自分自身にとってはどうしようもないことで悩んでいまして」
と秀生は切り出したが、他人に打ち明けるのは、何ともびくついてしまう。
「悩みというのは、そう簡単に話すわけにはいかないよな。話して何になると考えているだろう。今回は、特別に解決の道をしめしてやろう。それも霊界から、その解決の道を教えることが出来る。僧侶の世界では、よっぽどのことがない限り許されないことだが、御仏のいる霊界と言葉を交わし、なぜ君がそうなったのか、そして、その解決策を伝えることをするのじゃ」
 僧侶の言葉は奇想天外に思えた。霊界と言葉を交わす。何なのだ? オカルト映画じゃあるまいし、何と不気味なことを言うのだ。
「本当に解決するのですか」
 秀生は、興味本位に訊いた。
「ああ、するさ。保証する。霊界からの言葉は絶対に正しいからな」
 自信ありげな口調に秀生は、唖然とした。これが僧侶というものなのか。だが、同時に好奇心も沸いた。考えてみれば、この僧侶があの場にいなければ、自分は首を吊って死んでいた。死体となっていたのだ。この僧侶が命を預かったも同然だ。そんな風に思えた。思い切って言ってしまえば、すっきりする。この僧侶にどう思われようが構わない。秀生は、仏教とか信仰には縁がない男だ。家族も、知人も、誰も信仰などない。現代日本の典型的な無宗教族だ。
 どんな反応をするのか興味深かった。僧侶に真剣な眼差しを送り、秀生は話し始めた。
「実を言いますと、僕は、いわゆる、ホモ、つまり同性愛者なのです。そのことでずっと悩んでいて、自分はどうしてそういう人間なのか。どうして女性と恋愛することができないのか悩みに悩み続けて、こんな異常な自分が嫌で、そのまま生き続けるのが嫌になって、つまりそんなことです。どうしたらいいのでしょう」
 しばらく沈黙が流れた。僧侶のきょとんとした表情。だが、呆気に取られているような表情ではない。すると、僧侶は目を閉じ、両手を合わせて、口をもぐもぐとさせ読経のような言葉を唱えた。呪文のような読経が終わると、突然、言葉を放った。
「あなたが、心の中で思うこと。そのことをどうしようかと必至にもがくだけでは解決の道はないでしょう。世の中には様々な考え方があります。その一つ一つを理解しようとする気持ちが大事なのです。あなたは、ものごとの一面しか見ていない。というか、見ようとしていない。問題はそこにあるのです。そして、そのことに気付くことで解決していくでしょう」
 話し終わり、しばらく沈黙が流れると、僧侶ははっと目を開けた。秀生は、何が何なのかさっぱり分からなかった。
「一体、何だったのですか?」
 秀生は、きいた。
「言った通りのことだ」
「それで、それはどういう意味で、ものごとの一面しか見ていないって。そのことに気付くって」
 秀生はさらに迫った。
「解決するってことだ」
と僧侶が言い返す。僧侶は立ち上がり、障子を開け、外を眺めた。外に見えるのは、墓石の列と富士山だ。
「ここにおさめられた人々は皆、富士の山が好きな人々でな。残念だが、魂と共に遺骨を移さなければいけなくなった。この寺も取り壊されることになる」
 僧侶は、何を言いたいのか。まるで、さっきまでのことはお遊びだとでもいいたいような素振りだ。この老人は狂っているのか、いい加減なのか。
「住職さん、教えてください。どういうことなのか。解決するって、それはもうホモではなくなるという意味なんですよね」
 僧侶は、秀生を見つめ言った。
「解決するのは間違いない。だが、そう焦るな。それにな、世の中には、お前などよりも、もっと深い悩みを抱えて生きている人々もいる。それを忘れるな」
 僧侶の反応は、素っ気なかった。何だか急に冷淡になったような。そうか、ホモで悩んでいるなんて悩みを打ち明けられて、答えに困ったのだな。だから、いい加減なことを言って。秀生は、肩の力が急に抜け落ちた。
「まあ、ありがとうございました。よろしければ帰らせていただきます」
と言い、秀生は、そのまま寺を後にした。僧侶は何も言わず、追いかけもしなかった。
 元来た道を戻り、駅に着いた。改札で横浜行きの切符を買った。
 改札を抜け、ホームに出ると、電車が丁度入ってきた。「横浜行き」と書いてある。秀生は電車に乗り込んだ。
 電車は二時間後に横浜駅に到着した。
 気が付くと体が汗びっしょりになっているのを感じた。今日はずっと暑かった。一日緊張し通しのせいもあった。横浜も負けずと暑い。秀生は、思った。サウナにでも入ろうか。着ていたシャツがびしょびしょだ。
 駅ビルの中にサウナ入浴場があるのに気付いた。秀生は、中に入った。入場料を払い、入浴場とそこに付随するサウナ室に入った。浴槽で体を洗った後、秀生はサウナ室へと入った。さっきまで汗だくになっていて、その汗を落としたと思ったら、またサウナ室で汗をかく。何だか矛盾した行動を取っている気がしたが、気分転換をしたかった。朝早くから昼過ぎまで、ずっと死ぬつもりの気分でいたのだから、そんな気分を吹っ飛ばせたらと思った。体の垢を落とすことでそんなことも可能でないかと考えた。
 サウナに自分が一人ぼっちでいるのに気付いた。別に、そんなこと構わないのだが、ふと思った。サウナにいるのだ。中にいる人々は自分を含めて皆、全裸の男性だ。ああ、何だか嫌だな。
 すると、サウナのドアが開き、背の高い筋肉質の男性が入ってきた。男性は、自分よりやや歳上の感じで、がっちりとした体格をしている。それに股の間には、大きなペニスをぶら下げている。それは見事な形をしていた。
 秀生は、見入ったが、あることに気付いた。今までと反応が違う。明らかに違う。今までは、なにがしか、体に興奮を覚えるような感覚が込み上げてきたのだが、今度ばかりは何も感じてこない。ああ、これは何という反応だ。そうだ、男なら正常といえる反応だ。
 秀生は、サウナの外を出た。浴場にも数人の全裸男性がいた。太ったタイプ、痩せたタイプ。中年、若者、老人。じっくりと全裸姿を眺めたが何も感じない。
 ああ、これは正常な反応なのか。秀生は、すぐにシャワールームに行き、体を洗った。股の間のペニスの反応は何もない。どうやら、何も感じていないようだ。
 サウナを出ると、秀生は興味本位に駅ビル内の書店に寄った。そこの成人書物コーナーに行き、男性向けのポルノ雑誌を手に取った。本を開きページをめくった。女性のヌードのグラビアが見られる。下着を脱いだ女性の裸。砂浜を歩いていたり、ソファに寝そべったりと悩ましいポーズをとって写っている。目をぱっちりと開けてそれらの写真を見つめる。
 秀生は思った。感じるはずだ。男なら感じるはずだ。数分、雑誌を眺めたが、反応は全くなかった。ああ、そんなはずでは。どういうことなのか。
 雑誌を書棚に戻して書店を後にした。だが、ある種の進歩を感じた。自分は、正常に近付いている。正常になっているのだ。

第12章へ続く。
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テーマ:えろす小説 - ジャンル:小説・文学

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