小説「世紀末の苦悩」
1990年から2001年までの日本とアメリカが舞台。一人の人間が苦悩から学び解放されていく様を描く。


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東京在住、30代独身男性。



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第16章 革ジャケット
まずは第1章から第15章までお読み下さい。

 秀生は、翌朝、目が覚め、あることに気付いた。それは、ここが8月下旬とは思えないほど涼しい、いや、むしろ寒いということだ。窓の外をみるとうっすらと霧がかっているのに気が付いた。そうだ、ガイドブックにも書いている。サンフランシスコは、湾と太平洋に挟まれた半島で、よく霧が出る。したがって周囲の土地よりも気温が下がるのだ。
 パンツ一枚で寝ていたのでTシャツを着てみたが、それでも寒い。まるで秋の季節のようだ。そうである。秀生は、夏の服しか持ってこなかった。寒くなってくれば、現地でジャケットを買おうと考えていた。しかし、すでに寒い。日本が夏なので、そのままの感覚が着いてからしばらく残っていたためか、現地の涼しさは特に気にならなかった。
 明日には、第1日目の講義が始まる。初日から風邪をこじらせてはいけない。ジャケットを買いに行こう。シャワーを浴びて、とりあえず、Tシャツにジーパンの格好になった。バリーが朝食を食べていた。背広を着込んでいて、出勤するようだ。
「よう、おはよう。調子どうだ?」
「おはよう。どうやら、ここの朝は思ったより寒くて、風邪をひきそうだよ。ねえ、ジャケットを買いたいんだけど、どこかいいところ知っているかな。できれば、かっこいいジャケットを買いたいな。レザージャケットなんかいいと思うだけど、どこかいいところ知らないかな」
 レザージャケット、という言葉が浮かんだのは、少し気取ってみたくなったからだ。黒い革のジャケット、ハリウッド映画などに登場するスタイルに一種の憧れがあり着てみたくなり思いついた。
「おう、レザージャケットなら、いいところ知っているぜ。カストロ・ストリートだ。ここからバスに乗って行けるぞ。そこなら、たくさんレザージャケットの店があるぜ。ついでに面白いこともあるぜ」
とバリーは、なぜかにやけながら、そう言うと、時間がないのか慌ただしく、家を出ていった。バリーの車が走り去る音が聞こえた。
 秀生は、ならばと、バスに乗ってレザージャケットを買いにその「カストロ・ストリートへ行くことにした。
 
 バスに乗ること10分ほどで、そのカストロ・ストリートに着いた。すぐにガラスのショーウィンドーに黒の革ジャケットが並ぶ店を見つけた。さて、急いで買わないと。革ジャケットは高いかな、と思いながら店の中に入る。あまり高すぎるのも困るが、50ドルぐらいなら買ってもいいと思った。がらりと見渡してみる。ちょうど50ドルの革ジャケットを見つけた。サイズも丁度良さそうだ。これに決めたと思い、レジに向かう。同じく革ジャケットを着た店員に差し出す。50ドルを払って外に出た。これでよし、ということで、家に帰ろうと思ったが、バリーの言っていた「面白いこと」という言葉が気になった。何を意味するのか。ここも、シスコの観光スポットだというのか。
 ならばと思い、ちょっとぶらついてみようと思った。書店があった。中に入る。書棚を見回してみる。何冊か、若い男性が表紙となっている雑誌を見つけた。若者向けの雑誌かと思い、ぱらりと中を開く。
 はっと驚いた。男のヌード写真だ。素っ裸になっている。股間のペニスを丸出しにして、勃起している姿も写っている。尻の穴を広げている姿。何だこれは、男性ヌード、女性向けのポルノ雑誌と思ったが、そうでないことがすぐに分かった。裸の男同士が抱き合い絡み合う姿の写真もあった。これは、ホモのためのポルノ雑誌だ。げ、とんでもないものを。そう思って、雑誌を書棚に戻す。
 変な雑誌を売っている店だ。あんな気持ち悪いものを、と思いながら外に出る。通りを見渡す。ふと変なことに気付く。手をつないでいたり、肩を寄せ合っている男同士二人連れをちらほら見つけた。何でだ、と思いながらもさほど気にはしなかった。それよりも気になるのは、腹が減っていることだ。そうだ朝食がまだだ。時間は、午前10時半だ。どこか、食事をするところはないかと思い、見回す。レストランが見つかった。サンドイッチやハンバーガーを出す店のようだ。この中途半端な時間帯だと、そんなところしか開いてないだろうと思い入った。

 カウンター席があり、そこに座りサンドイッチを注文する。5分後、サンドイッチが出され、すぐに食べ始めると、すぐ横に、革ジャケットを着た中年の男性が座った。秀生は気にせずサンドイッチを食べ続ける。
 すると、「ハイ」と男が声をかけ、突然、馴れ馴れしく秀生の肩に手を置く。ふと不気味に思いながら、秀生は男を見つめた。頭は半分白髪で、灰色の髭を顎に生やしている。にやりとした表情に、秀生を熱心に見つめる。
 なんでこんな風に見つめるのか分からない。
「君は、この辺に住んでいるのかい?」と中年男は、はなしかける。秀生は、「イエス」と答えた。ほんの数日前からだが、これから2年間、このシスコに住み続けるのだから、そう答えるのが的確だろう。
「ほう、じゃあ、一緒にどうだい、今日暇なら、これから一緒に過ごそう。いろいろと楽しいことをしよう」
 秀生は、サンドイッチを食べるのをやめた。何を言っているのか、この男。突然、馴れ馴れしく、それにこの目つきが不気味だ。まさか、こいつ!
 秀生は、立ち上がり、カウンター席から出ようとした。おっと、財布からサンドイッチの料金を出した。
「おい、待てよ。俺は君に興味がある。なあ、一緒に今日付き合ってくれ。デートしよう」
「デート?」
と秀生は驚く。
「何を言っているんだ。ここに住んでいるのなら分かるだろう。俺たちはゲイ共々、いい出会いを求めているんだ」
 ゲイ? そうだ、ゲイとは英語で「陽気な」という意味があるが、「同性愛者」を差す言葉としても使われている。つまり、「ホモ」だ。
「悪いが、僕はゲイではない。ほっといてくれ」
 
 秀生は、激怒して、また恥ずかしい気持ちで一杯で店を出た。急いで、通りのバスに乗り込み、家に戻ることにした。なぜ、ゲイと間違えられたのか、どうしても分からなかった。それに中年男の言っていた「ここに住んでいるのなら」という言葉の意味、サンフランシスコに住んでいるという意味か。
 ふと、バリーなら知っているのではと思った。バリーに訊いてみよう。

 その日の午後3時頃、バリーが家に戻ってきた。今朝の体験を秀生が持ちかける。
「ハ、ハ、思った通りだ。こんな革ジャケットを着て、あのカストロ・ストリートにいれば、自分はゲイだ。誘ってくれと言っているようなものだぜ」
「カストロ・ストリートって、そんなところなのか」
「ああ、だが、言っておくが、この街、サンフランシスコはゲイの街だと言われるほど、ゲイが多いところなんだぜ。ゲイが結婚式をやるほどだ」
とバリーが、にたにたしながら言う。秀生は悪寒がした。ああ、とんでもない悪寒がする。今日見た男の全裸のヌード写真、中年男に突然誘われたあの時の感触と同じだ。
 ああ、どうしてだ、どうしてだ。サンフランシスコが、そんな街だったとは知らなかった。何てことだ。とんでもない街に来てしまった。ゲイが結婚式をするだと。
 秀生は、自分の部屋に戻り、ハンガーにかけていた革ジャケットをクロゼットの床に放り投げた。ハンガーにはかけたくない。こんなもの使いたくないのだ。
 しかし、バリーめ、からかうためとはいえ、あんなところを勧めるなんて。革ジャケットがゲイの象徴的ファッションだから、あの通りには、そんな店があるのだろう。だからって、他のところを紹介してくれたって。まさか、バリーまでっとふと思ってしまった。
 そんな、バカな、だとしたら、即刻、この家から出ていく。ホモ、いやゲイとは同居したくないぞ。僕は違うのだから。
 バリーが再び、家を出て行ってしまうと、秀生は、ふと家の中を見回し、その気になる疑問の答えが見つからないかと、とりあえず、リビングルームを隅々見つめた。テレビの横の本棚を見た。一番下の段に雑誌が何冊か積まれている。写真雑誌のようだ。秀生は、恐る恐るそこに近付き、雑誌の束から一冊を取り出し広げた。
 おお、心配することはなさそうだ、と即座に分かり秀生は胸を撫でおろした。

第17章へ続く。
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テーマ:BL小説 - ジャンル:小説・文学

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