小説「世紀末の苦悩」
1990年から2001年までの日本とアメリカが舞台。一人の人間が苦悩から学び解放されていく様を描く。


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東京在住、30代独身男性。



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第18章 大学院初日
まずは第1章から第17章までお読み下さい。

 新学期の初日、秀生にとっては、大学院生としての初日だ。MBA、Master of Business Administration、経営学修士号を取得するには、基本的な経済学、ビジネス知識の他、マーケティング、投資、コミュニケーション能力などのビジネスの直接的な能力を身につける講義を受けなければいけない。大学では、経済学を専攻していたもの、それは全て日本語だったし、経済一般を中心とする学問だったので、会社経営などに直接関与する技能を学ぶものではなかった。MBAは、そんな内容を主に含んでいるのが経済学との違いだ。
 初日の最初の講義は、ビジネス・コミュニケーションだった。中国系の30代ぐらいの女性講師が壇上に立ち、30人ほどの学生を前に、自己紹介、名前はアイリス・チャンという。アメリカ人らしく「アイリス」と呼んでと言った。その後、自分の講義内容の説明を始めた。まずは講義そのもののイントロダクションだ。
 そのイントロダクションが終わると、彼女は、にっこりと笑い、生徒達に向かい、
「それでは、私とこのコースのイントロダクションが済んだから、みんなそれぞれ自分のイントロダクションをして、一人一人、この壇上に来て、自分の自己紹介をするの。ビジネスにおいては、自己を上手く表現できる能力が絶対に必要よ」
 右側の席から順々に生徒達が壇上に立ち、自己紹介を始めた。名前から始まり、自分の出身地、MBAを習い始めた動機、趣味。アメリカ人ばかりではない、秀生と同じ留学生も数多くいる。各人、数分間ほどの自己紹介が終わると、チャン講師から、ちょっとした質問を受け、それに対して答える。これまでの人生で一番楽しかったこと、どんなビジネスマンを目指しているのか、趣味は何かなどだ。
 秀生は、一番左側の席に座っていたので、秀生が壇上に立った時は、生徒のほとんどが自己紹介を終えた後だった。なので、どんな感じですればいいのか把握でき、全く緊張せず自己紹介を始めた。
「マイ・ネイム・イズ・ヒデオ・ハコザキ。日本の横浜シティから来ました。横浜は首都である東京のすぐ側にある都市です。大学は、地元の大学で経済学を専攻していました。なぜ、MBAを習得することを決めたかというと、これからのビジネスの国際化を考え、英語でビジネスが出来、このアメリカでの留学を通しての国際感覚を身につけ、世界のどこにいても通じるビジネスマンになりたいからです」
とまあ、自分の番を待っている間に考えたスピーチを口にした。さて、チャン講師からの質問になる。席に座って秀生を見上げている。何をきかれるか?
「ヒデオ、サンフランシスコは初めてなの?」
「ええ、というかアメリカは初めてで、日本以外のところに来たことも初めてです」
「そう、ヨコハマときいたけど、実をいうと私の親戚がヨコハマに住んでいるわ。どこか分かるかしら」
とチャン講師が親しげに微笑み言った。ヒデオは、すぐに分かった。
「ああ、チャイナ・タウンですね。たくさん、中国の人が住んでいます」
「このサンフランシスコにもチャイナタウンはあるから、親しみを感じるかも。是非とも、訪ねてみたら」
「はい、まだ、来たばっかりですけど、いずれ行って見ようと思います」
「そう、是非ともね。サンフランシスコに来て、まだ日がないのね。今日までに、どこか面白いところに行ったかしら?」
と訊かれた。まだどこにも、時間がなくて、と返したいところだが、ここで自分をアピールするチャンスだと思い、ヒデオは、昨日の出来事を思いだし言った。いい笑い話になると思った。
「ええ、行きましたよ。カストロ・ストリートというゲイの街。いやあ、面白かったです。驚きました。ショックですよ。あんなところ来たの初めてで」
と大袈裟に驚きを見せクラス全体に対して言った。カストロ・ストリートと聞いて皆、何を意味しているのか分かったらしく、どっと笑い声が沸き起こった。はは、うけたぞ、と秀生は思った。そして、チャン講師の方を向く。
 チャン講師には、さっきまでの笑顔をなくなって、急に硬い表情になっていた。ざわめきの中、さっと立ち上がった。
「やめなさい。どうして笑うのか分かるけど、とっても不適切なことよ。ヒデオ、あなたの言ったことも不適切よ。誰もが、自分の肌の色や民族を変えられないように、誰も自らのセクシャル・オリエンテーション(性的行動)を変えられないのよ」
 すぐに講義室の中は静まった。ヒデオは、クラスの人々を見渡した。ヒデオと同じ年代が半分以上を占めるが、それよりも年上の30代や40代ぐらいの人々もいる。人種は様々、民族も様々、アメリカ人以外に、アジアからの者、アフリカから来た者、ヨーロッパから来た者など多種多様な集団だ。横浜の大学にいた時とは、その点が大きく違う。
 だが、秀生は、不適切な発言をしたような覚えはない。チャン講師が何を言っているのかが、全く分からなかった。
「ヒデオ、もういいわ。席に戻って。では、次」
とチャン講師が言う。ヒデオは席に戻った。全生徒の自己紹介が終わった時、ちょうど講義の時間が終了となり、すぐに解散となった。

 秀生は、講義室を出て、すぐに事務室へと向かった。まだ、初日だ。このコミュニケーションの科目だが、別の講師のに変えようと思った。チャン講師は苦手だ。中国系だからかな。横浜でも中国系の人は、気が強くてつっかかる癖があることで有名だ。今学期中、あの女性講師と付き合っていくのかと思うとつらい。

 まあ、いいかと思い、事務室に行き、クラス替えを申し込んだ。別の講師の科目に空きがあったので、そこに移ることができた。秀生のスケジュールの開いた時間にも合致する。丁度、今から始まるという。すぐに指定の講義室に向かった。

 その講義は、60歳ぐらいの白人の男性講師が受け持ちだった。講義は、簡単な科目の説明を10分ほどして、すぐに教科書を開いてのレクチャーとなった。秀生は、ほっとした。

第19章へつづく
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テーマ:自作連載小説 - ジャンル:小説・文学

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