小説「世紀末の苦悩」
1990年から2001年までの日本とアメリカが舞台。一人の人間が苦悩から学び解放されていく様を描く。


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東京在住、30代独身男性。



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第2章 噂
まずは、第1章をお読み下さい。

 通学のバスに乗っていた。
 体は、きれいに洗っている。とくにあの辺りは、熱心に洗った。だが、ちょっとまだむずむずする。          
 秀生は、何となく、恥ずかしい気持ちを押さえながら吊り革につかまり立っていた。
 すぐ横で、女子高生の集団が、騒いでいる。これは、うちの学校の連中だ。ま、女の集団というのはうるさいが、可愛いものだ。ほら、そんな風に思える。秀生は、女の子が好きなんだ。普通の男だ。
 集団の中に、一人知っている顔がいた。あ、中島知美だ。クラスメートで、お喋り好きと有名だ。というのが、歩くスピーカーというあだ名があるほどだ。やたらと、学校の噂を集めては、みんなにたらし回っている。実際、彼女になにか秘密を知られるとおしまいだ。隠しておこうとした秘密もまたたく間に全校中に知れ渡ってしまう。彼女の被害にあった者は数知れず。かくゆう、親友の安倍もそうなのだ。あいつが、好きな女に告白をして、その場で剣もほろろに振られたことを、全校中に触れ回り、安倍は、一週間ほど登校拒否になってしまった。
 まったく、迷惑な女なのだ。今も、あの集団の中で新しい噂を広めているに違いない。
 別に関心もない。どうせ、取るに足らないことだ。聞かないようにしよう。
 と、だが、そのとき、中島知美の声が自然と耳に入った。
「ねえ、ねえ、知ってる。箱崎っていううちのクラスの男の子なんだけどさ。ホモなのよ」
「えー、うそ、ほんと、知美?」
「ほんとも、ほんとよ。でさ、いま、三年の尾崎さんにぞっこんらしいのよ。考古学部の部長よ。箱崎くん、尾崎さんが目的で部に入ったみたいよ」
「へえ、尾崎さんにね?かっこいいもんね」
「だけどさ、尾崎さんには、松村さんがいるでしょう。二人は、もう公認カップルだし。かなわぬ恋に終わるのよ。ホモ君の純情も、砕け切り!」 
「でも、どうして箱崎くん、ホモになんかなっちゃったの」
「そりゃさ、あのド近眼の眼鏡じゃもてないからよ。真面目すぎて、女に相手にされず、とうとう男に走るようになったのよ」
「ア、ハハハ」
 彼女達の大きな笑い声は、バス中に響いた。
 バスが、停まった。
 ここは、いつも下りる学校の前のバス停より二つ前のところだ。 だが、秀生は、急いでバスを下りた。道に出て、全速力で走った。

 それから、五分程で、大きな川岸の土手に着いた。
 なんとか、気持ちを落ち着かせることにした。土手の地べたにどしっと座った。
 中島の奴、なんって女だ。安倍だけでなく、この自分まで犠牲者にしようとは。
 それも、全く、根も葉もないことを広めやがって!ああ、恥ずかしい。
 根も葉もないこと?秀生は、ふと疑問に思った。果たして、本当に根も葉もないことだろうか。
 ああ、根も葉もないことさ。自分は、先輩にあんな気持ちで接っしているんじゃな・・
 ふと、思考がとまった。頭の中で数分ほど沈黙が続いた。
 「火のないところに煙は立たず」というが、自分自身ではそうではないと思っても、端から見れば立派な異常行為に見えてしまうことだってある。
 確かにそうだ。秀生は、考古学部に先輩に誘われてから、以来、ほとんど毎日、先輩に会っている。部活の時はもちろん、部活のないときでも、用事を見付けて会おうとしたりした。何度か先輩の家を訪ねたこともあった。
 そういえば、部活に先輩が来てないときは、つまんなくなって、帰ってしまったことがあった。
 考古学部にいるのに、考えてみれば、歴史に強い興味があるわけじゃない。
 秀生は、成績はいつもトップクラスの優等生である。これでも、毎日の予習・復習はきちんとこなし、授業はいつも理解しているのだ。世界史もいつも満点近い点数を取って、評価は毎学期5だ。だが、他の科目でも5は取っている。特に好きだから成績がいいわけではないのだ。
 
 そんな秀生がなぜ、考古学部に入ったかって、考えてみれば理由は一つ、尾崎先輩だ。
 先輩と顔を会わすとなぜか気分が高揚する。そして、できるだけ長くいたくなる。部活が終わって別れた後も、また会いたくなる。一人で退屈していると、自然と先輩のことを考えたくなる。
 まるで、少女漫画の主人公だ。自分は、女の子か?男のくせに男のことを思っているなんて。自分は、男に恋をしている。ホモなのか。え?
 そんな変態じゃないぞ。たまたま尾崎先輩に、変な気を起こして、あれは一種の同性としての憧れを持っただけで、尾崎先輩っていい人だから、誰でもたまには体験することで・・
 でも、今まで秀生は女の子に恋をしたことがあるのだろうか。まず、思いつくのは姉の奈津美。だが、自分の姉さんだし、好きといっても、別に愛し合いたいとかいう激しい気持ちはない。ずっと、小さい頃から付き合ってて、いつもやさしくしてくれたから、姉として好きなだけ。
 幼稚園の頃からを、振り返ってみよう。まあ、何人かいたかな。幼稚園や小学校で、好きで付き合ってた女の子は。でも、あんな小さい時の好きなんて、好きなんてうちに入るのだろうか。別に恋愛というレベルの話じゃない。互いに抱き合いたいとか、キスをしたいとか思うわけじゃないんだから。
 考えてみれば、恋愛とかセックスとかいう言葉を知りだした中学生の頃から、秀生には、まともに恋をしたという女の子はいない。
 どうしてだろう。女の子に興味はないのだろうか。女の子は、嫌いじゃないぞ。テレビで出てくる女優やモデルできれいな人が出てくると見とれてしまうことがあるし、街を歩いているスタイルのいい女性と擦れ違うと、きれいだなと見惚れてしまうことがある。美人は大好きだ。
 だけど、女の人と恋をしたいとか、キスをしたい、抱き合いたいとかは考えてみれば思ったことはない。映画やテレビだと男女がそういう風に絡み合うシーンがしばしば出てくるが、そういうのをしたいと思う女の子と出会ったことはない。
 他の奴は、どう思っているんだろうか。中学に入って、安倍を含めた知ってる男友達がヌード雑誌を学校に持ってきたりして、騒いでたな。やれ、おっぱいが大きいとか、尻に丸みがあるとか、股の間がどうとか。
 秀生は、どうもそんな仲間に入りたがらなかった。お小遣いをヌード雑誌を買うのに使うなんて無駄でしかない、と思っている。それに、あんな裸を、ただおもしろ半分に載せている雑誌のどこがいいんだろうか。
 ま、自分は真面目で通っている男だ。そんなものを見るぐらいなら、英語の単語や数学の方程式を少しでも多く覚えることが大事だと思うのだ。いつも朝礼で校長先生の言う、学生は勉強第一という言葉を他のみんなが聞くふりして、聞いてないときに、本気で受けとめ、身にしませて聞いているのだから。まあ、それが厳しい受験戦争に打ち勝ち、いい大学に入り、いい会社に就職する近道であるのは、歴然とした現実だ。
 でも、待てよ。中学の性教育の時間に先生が言ったかな。君達の年頃になると、どんな真面目な子でも、女の子の裸に興味を持つものだよ、て。
 女の子の裸に興味? だからヌード雑誌を買う? 安倍が持っているのでヌードの写真を見たことはあるけど。でも、興奮なんてしたことない。するものなのかな?
 裸を見て興奮? そういえば、中学校の時、修学旅行で大浴場に入ったことがあったな。クラスのみんなと、そして、先生と。みんなは、恥ずかしがって、腰にタオルを巻いてたっけ。先生は、男が恥ずかしがるもんじゃないって言って、すっ裸で堂々と風呂場に入ってきた。
 その時を覚えている。とっても立派な裸だった。先生は、体育教師で柔道の有段者だった。体中に張り巡らされた筋肉が見事な線を描き、胸にもじゃもじゃと胸毛が生え、そして、何よりも、足と足の間にぶらさがっているあれ、チンポ、いや正式にはペニスと言うのかな。それがとっても大きく、長く太い棒とふっくらとした袋、まわりに生えてるもじゃもじゃの毛。
 その姿を見て頭に血がのぼってくるような気分がしたのを覚えて、じっと眺めた。そうだ、その時に自分のペニスが立ったのを覚えている。それで驚いて、見ないようにして、おさまってから体も洗わず風呂場を急いで出ていったことがあった。
 昨夜見た夢は、なんだったんだろう。中学の時から、経験のあることだ。夢精と呼ばれる男の生理だ。性教育の時間に習ったな。夢の中で女の子の裸を見て興奮してペニスが勃起し、成長期にたくさんつくられたまり過ぎた精子を排出するため噴射するものだと。でも、見たのは先輩の裸。男の裸。
 なぜだ?なぜなんだ?自分がホモ?オカマ?変態だってことか?そんなバカな! 
 秀生は、今までオカマと見られたことはないのだ。筋骨たくましく荒っぽい言葉を使って男らしさを振りまくタイプではないが、外見も仕草もごく普通の男達と変わらず、ごく普通の男子高校生に見られているのは確かなのだ。今まで、一度として「おまえ、オカマみたいだぞ」などと人から言われたことはない。
 男のくせに、男を愛する?そんな気持ちの悪いことをするのか。
 ああ、おぞましい。ああ、おぞましい。自分は、そんなんじゃないぞ。そんなんじゃ、絶対ないんだ。
 でも、今までのことを思い出すと、それに今、現在だって、先輩に・・
 ああ、やっぱり、自分は変態なんだ。認めたくはないが、やっぱり変態だったんだ。どうしよう!どうしよう?
 待てよ!なんで自分がホモであるかなんて決めるんだ?
 たしかに、今までのことを考えれば、ホモと分析できるが、果たして自分は女の子とまともに付き合ったことはあるのだろうか。
 友達として付き合ったことまではあるが、それ以上は経験がない。女もなければ、男とも、もちろん、ない。今までは、単なる想像で思ってたことにしかすぎないんじゃないか。よくいうじゃないか、どんなことでも行動にうつして実行してみろって、想像やイメージとはずいぶん違うものだって。
 恋愛は経験してみないとわからないものだと。そういえば、よくそんなこと、彼氏ができるたびに姉さんが言ってたっけ。
 秀生は、女の子と恋愛もセックスの経験もない。友達には、とっくにすました奴もいる。いい加減、僕も十七だ。まだ未成年者だが、そろそろ、そんな経験もしてみるべきだろう。
 やって見れば、絶対変わる。女の子と付き合えば、変わっていく。まともな普通の男であることが分かるだろう。
 今までは、変だったんだ。他の連中と同じように、もっと女に興味を持とう。
 そのためには、変な感情を捨てよう。男につい、感じてしまう変な気持ちをなくそう。本来、あってはならないものなのだ。
 秀生は、カバンを開けた。筆箱とノートを取り出した。
 ノートを開いた。膝の上にノートを置き、ボールペンを走らせ書いた。
「退部届け」

第3章へつづく。
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テーマ:自作BL小説 - ジャンル:小説・文学

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