小説「世紀末の苦悩」
1990年から2001年までの日本とアメリカが舞台。一人の人間が苦悩から学び解放されていく様を描く。


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東京在住、30代独身男性。



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第20章 アマンダの父
まずは第1章から第19章までお読み下さい。

 11月下旬、この日はアメリカでは感謝祭の期間で、各家庭で大きな皿に置いた七面鳥が用意され、家族やゲストを招待してのパーティーが催される。大学院では、親しく会話を交わす友人は何人かできたが、そういうパーティーにお誘いを受ける機会は巡ってこなかった。よっぽど親密でないと無理なのだろうし、秀生も、さほど関心がなかった。
 だが、思わぬ人から招待の電話がかかってきた。
「ハロー、アマンダよ。ヒデオ、あなたに頼みがあるの」
と親しげに言ってくる。アマンダとは、これまで数度、このバリーの家にいる時に挨拶程度に会話を交わしている。お互い、友達といえる仲ではないし、アマンダは、バリーのガールフレンドだ。そんなアマンダからの頼み事とは何かと思い、はっとした。
「今日のお昼、私の家で感謝祭のパーティーを開くの。それで何だけど、あなたに来て欲しいの」
「え、そんな僕が? でも、そんないいのかい? バリーも来るの?」
「バリーは来ないわ。あなたが必要なの?」
「ああ、でも、どうして? バリーが喜ばないよ」
と答えた。
「大丈夫よ。これはビジネスを兼ねたパーティーなの。父の会社のクライアントをパーティーに招待しているのだけど、そのクライアント、日本人なの。いつもなら、通訳の人が同行するんだけど、その通訳が急に来れなくなってしまってね。クライアントだけで来るってことになったのだけど、あまり英語が得意な人手はなくてね。あなたに通訳をしてもらいたいの。急に思い浮かぶ人というと、あなたしかいなくて」
「そりゃあ、日本語と英語は分かるけど、通訳までは」
「ああ、心配しないで。ビジネスの話題はなし。カジュアルな会話だけで済ませるから」
とやや、焦っているような口調が響く。あの美人のアマンダの頼みと考えると、断る理由はないと秀生は思った。

 正午を少し過ぎたところ、秀生は、市内きっての高級住宅地パシフィック・ハイツにあるアマンダの一家の豪華な邸宅の中にいた。アマンダが、車で秀生を迎えに来てくれた。服は、フォーマルでなくてもいいということだったが、とりあえず、背広を身につけアマンダの父、ブレイク・キャリントン氏の通訳としてパーティーの席に着いた。

 キャリントン氏は、カリフォルニアでも指折りの大銀行の重役を務めている人で、見た目からも、そのタイトルにふさわしい貫禄を醸し出している人だ。背が高く、白髪に白髭、実に大企業の重役らしい。アマンダは、市内の美術大学に通う女子大生で、年齢は21歳ぐらいだ。将来は、画家か、アートの先生を目指している。アマンダは、キャリントン氏の一人娘だが、母親は2年前に病死して、父と娘だけの家族ということだ。
 
 キャリントン氏は、やり手のビジネスマンらしく、日本人相手でも、てきぱきとパーティーのホスト役を務めた。秀生の通訳は思った以上に楽な仕事だった。ほとんどどうでもいいカジュアルな会話ばかりで、目配せや、あうんの呼吸で互いにコミュニケーションを取り合っているような感覚で、秀生は、きちんと訳をしなくても会話はスムーズに進み、パーティーは難なくこなせ、パーティーが終わると、ゲストである日本人クライアントは、実に楽しんだかのように微笑みながら帰っていった。

「いやあ、ヒデオ、ありがとう。君のおかげだ、感謝する」
「いえ、僕も楽しめました。七面鳥、とってもおいしかったです」
 さて、パーティーの後は、どうしようか。ビジネスとしてのパーティーが終わったのだから、自分の役目も終わりかなと考えたが、
「そうだ、今回の通訳、報酬を払うよ。時給100ドルで、2時間だったから、200ドルでどうかね」
とキャリントン氏。
「いえ、とんでもない。こちらも、素敵なパーティーに招待されましたし、何よりも、バリーと親しいアマンダさんからの頼みですから」
「バリー、あの黒人の?」
とキャリントン氏の表情が急に硬くなった。その表情の変わり方が実に不気味であった。何なのかと思ったが、すぐそばにいたアマンダの同じく強張った表情から、事情が察せた。
「いえ、あのアマンダさんの友達のバリーさんで、僕もバリーの友達なんです。だから、アマンダさんと僕も友達で」
とごまかすように作り笑いを浮かべ秀生は話した。
「そうよ、ダディ、ヒデオもバリーも私の友達なのよ、そう言っているでしょう」
アマンダも、その場を繕うように、そう話す。

 気まずい雰囲気になったまま、秀生はアマンダの車に乗り込み、バリーの家へ向かった。キャリントン氏から、200ドルの小切手を秀生は受け取った。貰うつもりはなかったものの、互いにビジネスライクな付き合いで終えようと考えたからだ。
 アマンダは、突然、車を路肩に停めて、秀生に話しかけた。
「込み入った事情で御免なさい。私も父も、元は南部は、アラバマの出身なの。とっても保守的な土地柄でね。高校の時に家族でサンフランシスコに越してきたの」
 なるほど、キャリントン氏の英語は、南部訛りだったのに納得が言った。アマンダも、父親と話す時は、南部訛りで話す。
「つまり、バリーとの付き合いをよく思っていない」
「そうよ、だから、友達だということで通しているの。キャンプ仲間だとか、二人きりでデートすることはないような仲だってね」
「そんな、二人のことだから、僕にとってはどうでもいいことだよ。それにお父さんだって、いずれ、きっと分かってくれるんじゃないかな」
と秀生は、落ち込んだ表情のアマンダを見て、深入りしないまでも、慰めるつもりで言った。
「ヒデオ、実をいうと、バリーと私は、結婚を考えているの。きっと、そうなったら、私は父と縁を切らなければいけなくなるかも」
 さらに踏み込んだことを言われ、秀生は驚いた。自分にどうしろというのだ。秀生は、沈黙した。アマンダは、しばらくして、気を取り直したのか、アクセルを踏み、バリーの家へと向かった。
 バリーの家に着く。車が止まると、家からバリーが出てきた。アマンダは車から降り、顔を付き合わせた二人は、さっと抱擁する。抱き合いながら、とても不安そうな顔だ。異人種間の結婚は、昔と違い禁じられていないものの、偏見は未だに根強い。お互い深く愛し合っているものの、難ありということか。

第21章へつづく。
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テーマ:自作BL連載小説 - ジャンル:小説・文学

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