小説「世紀末の苦悩」
1990年から2001年までの日本とアメリカが舞台。一人の人間が苦悩から学び解放されていく様を描く。


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東京在住、30代独身男性。



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第28章 フェラーリ
まずは第1章から第27章までお読み下さい。

 その日の夜、秀生は、カストロ通りを歩いていた。ここはゲイの街だ。見渡す限り、この場所にはゲイしかいない。ゲイバーやゲイのポルノ雑誌やビデオを売る店が並ぶ。この通りは、シスコに着いたばかりの頃、偶然来たが、その時は、この場所がゲイの街であることなど知らなかった。そして、この黒いレザージャケットをゲイであることの目印を意味することを知らず買ってしまった。
 ちらりと聞いた話しでは、アジア人はゲイに大変持てるらしい。特に白人男性から人気があり、シスコのようにアジア系の多い街にアジア人を求めて訪ねてくる白人も多いそうだ。
 通りを歩きながら、秀生は周囲をきょろきょろ見渡した。通り過ぎる男たちを見つめながら、誰か自分に興味を示さないかとじろりじろりと目配せを送る。だが、誰も何気なしに通っていく。まあ、こんなもんだろうと思った。たかだが、通りに立っているだけで誰かに声をかけられるなんて思うのはむしが良すぎる。
 そうだ、バーに入ろう。そう思い、近くのゲイバーに入った。中は、革ジャケットや肌寒い夜なのに中の熱気に合わせてTシャツを着た姿の男たちでごったがえしていた。秀生は、目配せをしながら店内の人々を眺める。カウンターに向かい、バーテンダーにコーラを注文した。3ドルほど払ってコーラを貰いぐいっと飲む。カップルになってお喋りをしている客がいる。何とか、相手を見つけられないかと秀生は思った。
 だが、誰も声をかけない。みな、自分の相手がいるか、一人でいたいのか、また、自分以外の男が好みなのか、どうも秀生は、バーの中で浮いた存在になっていることに気付いた。つい解放感から、気分が高揚し、思わずゲイの街に来たのだが、どうもはしょり過ぎたようだ。簡単に相手など探せるはずがない。最初に、この街に来たときは、突然、声をかけられた。だが、その時は、ゲイに関しては拒否状態だった。
 今その気になったのだからっと思っても、それと同時に相手が見つかるといううまい話があるはずがない。うーん、だが、気分が高揚している。下半身にも、そんな兆候が。
 とにかく、このバーを出よう。それから、他のところに行ってみようか。もっと凄いところがあるかもしれない。ここはゲイの出会いの場だ。何だってある。見渡して探してみよう。
 通りを歩く。ゲイバー、ポルノショップなどが続く。ゲイっぽい男たちが集っている。通りをひたすら歩く。
 横断歩道を渡って、反対側の通りに行こうとした。すると、突然、車が飛び出してきた。秀生は、ひやっとした。もう少しでひかれるところだった。目の前に停まったのは、赤いフェラーリだ。もの凄い車だ。イタリア製のスーパーカーだ。
「いやあ、すまない。ギアチェンジができなくてね。飛び出しちゃったよ」
と運転席から男が声をかける。中年風の男だ。顔が窓から見えた。中年だが、ハリウッドスターのように艶やかな顔付きをしている。ケビン・コスナーとリチャード・ギアを合わせたような顔だ。
「びっくりだよ。こんなフェラーリが飛び出してくるなんて」
と秀生は、驚きながら、にたりとした表情を作りながら、声をかけた。
「君、この車を運転してみたいかい?」と男。
「いや、そんな、どうして僕が?」
「実をいうとさ、私は、マニュアルシフトの車の運転ができなくてね。LAで乗る自分の車はオートマだから。今日は友人からこの車を借りたんだ。だけど、どうしたって、ギアチェンジができなくてね。君、マニュアルの運転できる?」
「ええ、できるよ。ドライブしましょうか」
と思い切って誘いに乗った。フェラーリを運転できるなんてまたとない機会だ。
 男が運転席から降り、助手席に移る。そして、秀生が運転席に乗った。
 秀生は、自分の右側にあるギアを見た。6段シフトだ。シートといい、ボードといい、造りが豪華だ。こんな車に乗るのは生まれて初めてだ。ハンドルを握る。馬が立ち上がるエンブレムがついている。こんな車を運転するのか。
「さあ、行こう」と男。
 秀生はギアを右手に、足はブレーキとクラッチを踏み、そして、すぐにアクセルに足を踏み直すと、すぐにギアをチェンジして、車を発進させた。
 すっと速度が上がったので、急いでブレーキで速度を落とす。さすがフェラーリ、スピード感が違う。エンジン音も違う。車を、カストロ通りから離して、人も車も少ない住宅街へと出した。落ち着いて周囲を運転する。車の運転自体、久しぶりだ。
 数分ほどして秀生は、フェラーリの運転に慣れてきた。
「どうだい、ドライブの心地は?」
「とってもグッドだよ。とってもナイスな車だ」と秀生は、嬉しそうに言った。
「私はジョージだ。君の名前は?」と男。
「ヒデオ」と答えた。
「ヒデオ、どこの国、出身なの?」とジョージ。
「日本さ」
「ほう、そんなに遠くから? ここに住んでいるの?」
 秀生は、ふとジョージという男に対して警戒心を感じた。突然、車に運転しないかと誘い込み、自分のことをあれこれ訊いてくる。赤の他人に、それも怪しい感じのするこの男に正直に話すこともないと思い、
「いや、観光で」と答えた。
「ほう、そうかい。私は仕事でね。住まいはLAにあるのだが」
「車をドライブしたのはいいけど、これからどこに行くの?」
「ああ、泊まっているホテルに戻りたい。車は明日の朝、ホテルで返すことにするよ。こんな車には乗れない。私には難し過ぎる」
「ホテルってどこ?」
「ダウンタウンにあるフォルモントだ」
「フォルモント」
という名前を聞いてはっとした。シスコ一の高級ホテルだ。いや、アメリカ一の高級ホテルといっていい。市の中心部にどんと建つ白亜のクラシックな佇まいのするホテル。フェラーリの乗り回すだけはある。
 それならばと、ダウンタウンへ向かった。アクセルを踏み、坂道を上がり下がりして、市の中心部へと向かう。
 夜のシスコの坂道をギアをチェンジしながら上り下りする。なかなかのテクニックが必要になる。シスコの坂は実に急だ。ダウンタウンへ向かう道には、険しい坂がたくさんある。ケーブルカーが通る坂に出くわした。となると、ダウンタウンは近い。
 高層ビル群が見えてくる。もうすぐだ。
「いい、ドライビング・テクニックだ」とジョージは微笑みながら、車と平行して坂道を上るケーブルカーを窓から眺めながら言った。実にサンフランシスコらしい光景だ。
 そして、ついにフェラーリは着いた。白亜のホテル、フォルモント・ホテルだ。
 二十世紀の初頭に建てられたこの建物は、実にクラシックで美しい佇まいがする。フェラーリを玄関の前で止めた。ドアマンがやってくる。
「グッド・イブニング、ミスター・コンラッド」と顔見知りのように声をかける。ドアマンはお得意さまがやってきたかのような対応だ。「ハイ」とジョージは応えると助手席から降りる。
 秀生も、すぐに運転席から出た。駐車場係の男が、かけつけ運転席に乗った。フェラーリを地下の駐車場へ持っていった。
「ありがとう」とジョージ・コンラッドは言った。
「こちらも、いい車を運転させて貰えて」と秀生は微笑んでいった。これでお別れか。
「なあ、これから君はどうするんだい?」
「知り合いのところに泊まっているんで、バスにでも乗って帰るよ」
「いやあ、それじゃあ悪い。私のためにここまで連れてきてしまったんだ」
「どうだな、お礼に一緒に飲まないか。その後に、タクシーを呼んで返してやるよ。な、いいだろう」とジョージ。
 秀生は、このホテルなら安心かと思い付き合うことにした。ジョージは、背広にネクタイのスーツを着ている。革ジャケットで入っていいのかな、とうしろめたさを感じながらホテルに入った。
 大理石の壁と赤い絨毯のロビーを抜け、エレベーターに乗る。これから、バーにでも向かうのか。エレベーターが泊まったのは、客室のある階だ。廊下を数歩ほどあるくと「ジョージ・スイート」と札のかかったドアの前に着いた。
「あれ、ここ?」と秀生が言うと。
「ああ、この中にバーがあるのさ」とジョージ。
 中に入ると、その通りバーがあった。スイートルームの中のバーカウンターだ。大きなソファーとテーブルがでんとおいていて、だだ広い。だが、ここは応接室。ベッドルームは別にある。

第29章に続く。
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テーマ:BL小説 - ジャンル:小説・文学

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