小説「世紀末の苦悩」
1990年から2001年までの日本とアメリカが舞台。一人の人間が苦悩から学び解放されていく様を描く。


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東京在住、30代独身男性。



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第4章 デート
まずは第1章から第3章まで読んでください。

 港南高校は、男女交際には寛容な校風がある。校内では、よくカップルを見かける。校則に男女交際をとやかく言う規則はない。教師の中には、恋愛はすばらしいと語るタイプの人もいる。性教育の授業もあり、コンドームの使用の方法も習うほどだ。最も、教師たちは生徒たちが性的非行に走ることなどあまり心配していない。この学校は、県内でも指折りの進学校。入学の段階で、かなり真面目な生徒ばかりである。不良を見かけることなどまずない。そういう意味で、教師たちは生徒に強い信頼をおいていると言ってもいい。
 秀生は、春沢裕子にどうアタックすべきかを考えた。雑誌で女性をデートに誘う方法を読んだ。デートの場所といえば、映画館、遊園地、ボーリング場、スケート場などが定番のようだ。だが、秀生は個人の好みとしてどれも試してみたいとは思わなかった。映画は、テレビで見るので充分であるし、遊園地は小学生で卒業した。ボーリング場は、男同士の友人で楽しむのなら分かるが女の子だとペースが合いそうにない。スケートに関しては、からっきし駄目だし、氷の上を滑ることが楽しいとは思えない。だが、肝心なのは彼女が何をしたいと思っているかだ。
 それをどう探ればいいのかを考えたが、意外にも、そんな必要がないことをすぐに悟った。ある日、春沢裕子の方から、秀生に近付いてきた。それは、階段ですれ違い呼び止められた時だった。
「箱崎くん、実を言うとコンサートのチケットがあるのだけど、来てくれないかしら」
と彼女が二人きりで階段の踊り場にいた時にそう誘った。まさに渡りに船である。
「ああ、コンサート、いやあ、もし僕でよければ、で、誰のコンサート?」
 秀生は、嬉しそうに笑いながら反応した。
「私のよ」
と春沢裕子は言った。

 春沢裕子は、プロのバイオリニストになることを目指しているそうなのだ。幼稚園の頃からバイオリンを習っており、何でも通っている音楽塾主催のコンサートで演奏を披露することとなったので、家族や友人以外に、自分にも来てくれないかと誘いをかけたのだ。しかし、驚いた。なぜ自分にと秀生は思ったが、男の子を一人も誘えないのが何とも恥に思えるそうだからだ。他の塾生は、みんな男友達を誘っているとか。
 ある意味、かっこつけるために誘われたようだが、彼女の目を見ても、自分に興味を持ってくれているのは読み取れた。

 日曜日に、秀生は彼女から渡されたチケットを持ってコンサート会場に赴いた。学校の制服を着て来たため、彼女の母親が秀生が彼女が誘った男の子だと気付き、呼びかけてくれた。母親の他に、彼女の妹、音楽塾の女友達も来ていた。挨拶をお互い交わした。
 彼女の中学生の妹は、興味津々に秀生を見つめた。そして、秀生に訊いた。
「ねえ、あなたって、姉ちゃんのボーイフレンドなの?」
 秀生は何も言わず微笑みで返した。それな秀生に対し、彼女の母親も妹も好感を持ったようだ。
「あなたは、成績がとても優秀だと裕子がいつも話しているのですよ」と母親が秀生を称える。これは、たまらないと秀生は思った。何だかプレッシャーまで感じるほどだった。

 コンサートが始まった。開会の挨拶の後、塾生によるピアノ演奏、ビオラ演奏の後、春沢裕子のバイオリン演奏が始まった。赤いドレスをまとって実に清楚で美しい彼女の姿があった。表情が緊張しているのかやや硬い。彼女は、モーツァルトの曲を弾いた。クラッシックとかバイオリンなどに疎い秀生は、それが上手いのか下手なのか判断できなかった。だが、素人が聞いたとして、そんなに悪くはないものだと思った。バイオリンを弾く彼女の姿も板に付いている。清楚なイメージにピッタリだ。
 
 コンサートが終わった。コンサート後の懇親会の会場に向かった。ブッフェスタイルの夕食会であった。そこで、彼女と顔を合わす。最初は、母親、妹、友人と交えて会話をしたのだが、次第に周りが意識したのか、彼女と秀生は二人きりとなった。

 春沢裕子は、秀生を見つめ言った。
「来てくれて嬉しいわ。私の演奏どうだった?」
「すばらしかったよ」
と秀生は、そう答えるべく答えた。
「そう良かった。失敗しないかずっと緊張しながらだったのよ」
「へえ、そうなんだ。全く気付かなかったよ。すごくうまい演奏していたからね」
 これは白々しい台詞であると思った。
 彼女は微笑んだ。しばらく互いが微笑み合う時間が続いた。
「ねえ、今度は二人だけで会えないかしら。どこかで」
と春沢裕子が言うと、秀生は「しまった」と思った。この台詞は彼女に言わせるべきでない。男である自分が言うべきであった。
「ああ、嬉しいよ。また君から誘ってくれるなんて。僕も誘いたいと思っていたところなんだ。そうだな。どこに行きたい?」
と秀生は男らしく話した。
「そうね。秀生くんが決めて」
と彼女から「秀生」と呼ばれたのに驚いた。秀生はしばらく考え込み、
「そうだな。今度、中華街で餃子でも食わないかな? 美味しい店、知ってるんだ」
と秀生は照れながら言った。
「そうね。さっそく行きましょう」
と春沢裕子。え、また、素早い彼女の反応。だが、それもそのはず、ここは中華街のすぐそばの音楽ホールだった。

第5章へ続く
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テーマ:BL小説書きの日記 - ジャンル:小説・文学

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