小説「世紀末の苦悩」
1990年から2001年までの日本とアメリカが舞台。一人の人間が苦悩から学び解放されていく様を描く。


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東京在住、30代独身男性。



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第7章 ダブルス
まずは第1章から第6章まで読んでください。

一九九三年 春

 秀生は二年生となり、佐々木は、四年生となった。


 秀生は部室に「退部届」を携え向かった。もうこんなことは嫌だ。何とか避けないと。せっかく始めたばかりのテニスもやめないといけない。3年前、高校の考古学部を辞めた時のことを思い出した。自分は変態ではない。変な癖が出ようものなら、すぐにでも抑え込んでしまわないと。もう2度と佐々木先輩には会ってはいけない。
 部室に入った。そこには、着替えている途中で素っ裸の先輩がいた。
「よう、箱崎。どうしたんだ!」
 秀生は一瞬おののいた。筋骨隆々でたくましく、また又の間のあれがでかくぶら下がっている。これまで何度か見たことのある姿だが、突然、こんなに間近に目に入ったので驚いてしまった。だが、ひるんでいる場合ではない。すぐに気を取り直し、
「先輩、大事な話があります」
と言った。
「そうか。実を言うと俺にもあるんだ。箱崎、お前、夏の選手権で俺とダブルスでペアを組まないか」
と佐々木は言った。
 自分の言いたいことを言う前に、先んじて思わぬことを言われ、秀生は面食らった。
「僕とですか。ですけど、まだ始めたばかりで無理ですよ。選手権の試合なんて。ましてやダブルスですよ。それに先輩は、すでに中西さんと組んでいるのでは」
と秀生は即座に返した。中西とは、3年生の男子部員の一人である。
「いやさ、当初組む奴だった中西がてんで合わなくてさ。どうせなら、始めたばかりでもまあまあやれて、息の合うお前ならどうかと」
 自分と「息が合う」その言葉に変な刺激を覚えた。
「いやあ、でも、差があり過ぎます。先輩がほとんどカバーしなければいけなくなりますよ」
「いやあ、いいのさ。どうせ、中西とやったら息が合わなくて、外すことばかりになろうから。何なら、差があってもリズムが合えば、大事なところでは俺がしっかりカバーする。その方が、結果的に試合を優勢にすすめられるだろうし。どうだ? 俺にとっては大学生活最後の大会となるんだ。頼むよ、箱崎」
とけしかけるように佐々木は言う。
 秀生は佐々木の目が自分に向けてぎらぎらしているのに気付いた。なぜ、そんなにぎらぎらしているのか。こう答えるしかなかった。
「はい、お願いします。僕のような者でよかったらやらせていただきます。先輩とペアを組めるなんて実に光栄です」
 秀生は勢いよく答えた。
「よし、それなら、さっそく練習だ。さっさと着替えろ」
 秀生は、退部届けをポケットに入れた。後で破って捨てよう。急に気分が明るくなり服を脱いで、さっそくテニスの格好に着替えた。


 3ヶ月後、テニスの大学生選手権関東大会が開会された。これで3試合、勝ち進めば関東地区で優勝して全国大会の出場権を得ることができる。優勝は無理でも2位までに入れば、場合によっては出場権が割り振られることにもなる。
 この1ヶ月の間、講義を何度かさぼってまでも、秀生は練習に没頭した。佐々木のしごきも普段の倍以上の厳しさであったが、だが、気持ちよく受け入れた。大会が近付くのが待ち遠しくなっていった。そして、その大会の日になった。当日になるとさすがに緊張した。しかし、全力を尽くすしかすることはなかった。秀生は、身を引き締め佐々木とコートに向かった。
 佐々木がコートで秀生の前に立つ。佐々木の構える姿が凛々しかった。
「横浜大学 対 東京大学 ゲーム・スタート」
 試合は、始まった。
 そして、1時間足らずで試合は終了した。2-0で佐々木 淳・箱崎 秀生組があっさりと勝利したのだった。相手は2ゲーム程度しか取れなかったという明らかな惨敗であった。あまりにも弱すぎる相手で気抜けしてしまった。
「ははは、まあ、偏差値で強いところはスポーツで弱いのが定番というわけさ」
と佐々木は試合後笑いながら語った。
 しかし、翌週の2戦目の相手は、たやすい相手ではなかった。早稲田大学である。偏差値が高いことでは東大にひけをとらないが、スポーツには熱心な大学だ。
 1セット目は、6-3で敗れてしまった。体の疲れ具合も、1戦目の倍以上である。これは勝てないと秀生は予感した。
「いいか、負けるとなんて一瞬たりとも思うなよ。コートでは100%勝つことだけを考えろ」
 2セット目に入る前に佐々木は秀生にそう言い、カツを入れた。秀生は、身が引き締まり集中力が増した。
 コートのネット近くに先輩が立つ。先輩の引き締まった後ろ姿を見つめる。秀生はサーブを思いっきり放つ。すると、ボールは見事に対角状のサービスライン内でバウンス、そしてボールは外へと流れた。相手はボールを追うが追いつかなかった。
「フィフティーン・ラブ」と審判が声を上げる。
 セット開始のサーブで先取点を上げる。やったぞ! 先輩が振り向き互いに笑顔を交わす。そして、一挙に試合の流れは変わった。
 第1ゲームを先取した後、第2セットは、6-2の快勝で終えた。相手ペアは、明らかに体力を消耗しているのが見受けられたが、秀生達には、しっかり余力が残っている。続く第3セットへ。
 それはまるで赤子をあやすような進撃であった。相手は力が減退している上、コンビネーションが乱れまくっている。このセットでは、秀生は佐々木よりも、コートの上でボールを打つ機会を手にした。スマッシュ、ボレー、スピンと使いたい技の練習をしているみたいだった。
 結果、第3セットは6-1の大快勝。横浜大学、佐々木・箱崎組は、早稲田大学ペアに勝利し、関東大会決勝進出が決まった。決勝は二週間後となる。
 快勝ではあったが、試合終了後、体の疲労がどっと押し寄せてきた。秀生と佐々木は、更衣室に行く。二人だけであった。
「おい、一緒にシャワーを浴びようぜ。服をすぐに脱げ」
と佐々木が声をかける。体は汗びっしょりだ。秀生は、ウエアを佐々木と共に脱ぎ、同時に素っ裸になった。佐々木の汗びっしょりの体は、筋肉の形がくっきりと見え、いつもにも増して輝いている。佐々木と一緒にシャワーを浴びるのはこれが初めてではないが、今はなぜか気分的に違った。勝利の興奮と肉体的疲労が重なり合っているからか。
「おまえいい体しているな」
と佐々木がシャワーを浴びながら、すぐ隣でシャワーを浴びる秀生に言う。
「いえ、そんなに誉められても」
と照れながら秀生は言った。奇妙な発言だと思ったが、とても嬉しかった。なぜか嬉しい。
「体がいいフォームに固定されたから、こんな体になれるんだ。このままの状態でいろよ」
と佐々木。シャワーの栓を止め、タオルで体を拭く。
 秀生はシャワーを浴びながら、佐々木の素っ裸の後ろ姿を眺める。なんだか、その後ろ姿に吸い込まれる感じがした。何だか疲れている体がほってっていく気分になった。秀生は、シャワーの栓をさっと閉めた。気が付いたら、佐々木の真後ろに、そして、佐々木の背中に手をかざした。
「おい、何しやがっているんだ、貴様?」
と佐々木の恫喝する声を出した。佐々木が振り向くと同時に、秀生は体を弾かれ、バランスを崩し床に倒れ込んだ。素っ裸のままだ。秀生は我に返った。自分は何をしていたのか。そして、自分のペニスが大きくなり立ち上がった状態になっていたことにも気が付いた。
「箱崎、おまえって、何なんだ。おまえ、ホモなのか。何てことだ?」
 秀生は急いで言い返した。同時にペニスは収縮していく。
「とんでもないです。僕はホモじゃありませんよ」
「じゃあ、一体どういうつもりで、あんなことしてきたんだ! え、おまえ、俺にそんなつもりで付き合ってきたんじゃ」
と佐々木は怒鳴り声を上げる。秀生は答えに困り、しばらく沈黙が続いたが、さっと立ち上がりこう言った。
「実を言うと、しばらく女の子と体を交えることがなくて、ずっと欲求不満状態だったんです。それで、何だか体が今、疲れていて、シャワーを浴びていると意識がもうろうとして、気が付くと先輩の体が女の子の体に見えて。視界がぼうっとしていたんです。だから」
 苦し紛れの言い訳を秀生は語った。すると、佐々木は秀生を睨みつける表情をさっと和らげ、
「ほ、そんなことか。まあ、そう言うことなら仕方ねえな。男ならあるよな。俺の家で雄猫を2匹飼ってるんだが。大きい方が最近さかりがついてさ。雌猫がいないから、もう一匹の雄猫に抱きついてくるんだ。びっくりするよな。でも、男っていうのは常に体を求めているから、追い詰められると見境いなくなるもんだよな」
とあっさりと理解したような感じだ。佐々木の言葉に秀生は安心した。秀生は、同時に自分の話した言い訳が事実であるものと心の中で解釈することにした。
「なあ、箱崎。俺の大事なパートナーとして人肌脱ごうか。おまえのその欲求不満を解消させないとな。次は決勝だ。おまえをそんな状態のままにさせるとは心許ない。どうだ、今度、セックスのダブルス・パーティをしようと思っているんだ。おまえを誘うよ。相手はとびっきりの美女2人だ。お互いペアを組んで楽しもうぜ」
と佐々木から思わぬ申し出が出た。秀生は、度肝を抜かれたが、こうなっては断れなかった。むしろ自分を試すいい機会ではないかと思い喜んで受けた。
 
第8章へつづく。
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テーマ:恋愛:エロス:官能小説 - ジャンル:小説・文学

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